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大阪地方裁判所 昭和31年(行)15号 判決

大阪府豊能郡箕面町大字桜三百七十六番地

原告

勝本勝忠

右訴訟代理人弁護士

藤井哲三

大阪市大淀区中津本通一丁目

被告

淀川税務署長

山野正勝

右指定代理人大蔵事務官

葛野俊一

中川利郎

右当事者間の昭和三一年(行)第一五号所有権確認差押登記抹消登記請求事件につき当裁判所は次の通り判決する。

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は別紙目録記載の物件は原告の所有なることを確認する。被告は原告に対し右物件について大阪法務局昭和二十五年十月二十四日受附第一五一七六号を以てなした原因同年九月二十九日差押による差押登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めその請求原因として「被告は訴外三興工業株式会社に対して国税滞納があるとして昭和二十五年十月二十四日別紙目録記載の物件に対して差押登記をした。しかしながら右物件は訴外会社の所有ではない。すなわち、原告は同二十四年四月二十七日附、大阪法務局所属公証人古山茂夫作成の第九万二千九百五十五号公正証書を以て訴外会社に対する債権金三十五万円の譲渡担保として同日本物件の完全な所有権を取得したものである。したがつて右訴外会社の物件としてなしたものは原告の所有であるから右物件が原告の所有であることの確認を求めると共に右差押登記の抹消登記手続を求める」と、のべ被告の抗弁を否認し、

立証として甲第一号証の一、二同第二号証を提出し乙第一号証の一乃至三同第四号証の一、同第九号証の一、二の成立を認めその他の乙号証の成立は不知乙第四号証の一、同第九号証の一、二を援用した。

被告指定代理人は本案前の答弁として「原告の訴を却下する訴訟費用は原告の負担とする。」本案についての答弁として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めその本案前の答弁として「本件は原告が行政事件訴訟特例法による訴訟でなく、通常民事訴訟による訴訟として提起したものとみられる。而してこの種の訴の当事者は訴訟物である権利または法律関係の存否について互いに対立した利害関係の実質的帰属者でなければならない。しかるに本訴は国の機関たる行政庁を相手になしているものであるから不適法であり却下を求める」とのべ

本案の答弁として「原告主張のように本件物件を同二十五年十月二十四日差押をなしその旨の登記をしたことは認めるがその余は不知、原告は本件不動産の所有権移転登記手続をしていないし他方同二十三年八月一日より翌二十四年七月三十一日までの事業年度間の営業報告において同二十四年七月三十一日現在の貸借対照表資産の部に本件物件を土地建物設備金五十九万九千八百八十六円八十銭として計上し、その後同二十四年八月一日より翌二十五年一月三十一日までの仮決算時の営業報告書においても同二十五年一月三十一日現在の貸借対照表資産の部に右同様本件物件を同会社の所有として計上しているから本件物件の所有権は訴外会社のものであつて原告のものではない。

仮りに原告が訴外会社より本件物件の所有権を取得したとしても本件のように税金の滞納処分による差押には一般私法関係と同様民法第百七十七条の適用があるから不動産登記法の定めるところに従つて登記をしなければ不動産物件の取得を第三者に対抗することができない。原告は右のとおり本件物件の移転登記をしていないからその所有権を取得したことをもつて被告に対抗することができない。またかりに原告が訴外会社に対する貸金三十五万円の譲渡担保として同二十四年四月二十七日本件物件の所有権を取得したとしてもその後原告よりの借入金は同二十四年四月二十一日現在、金三十五万円とし、右返済として同年七月十一日金十万円、同月十五日金十五万円、同年八月十五日金五万円、同年九月三日金二万円及び同月五日金三万円の返済をしているから訴外会社は原告に対する金三十五万円の債務を同二十四年九月五日完済したものである。したがつて右債務の完済と同時に右物件は訴外会社へ所有が帰属したものである。

したがつていづれの点よりするも原告は同二十五年九月二十九日には本件物件の所有者ではないから被告が同日差押したのは何等違法ではない」とのべ、

立証として乙第一号証の一乃至三同第四号証の一乃至四同第五号証の一、二同第六乃至第八号証同第九号証の一、二を提出し甲号各証の成立を認めこれを援用した。

理由

まづ、原告の本訴の当否について按ずるに、原告は被告に対し本件物件の所有権の確認と被告がなした滞納処分としての差押登記の抹消を求めるものであるから本訴は通常民事訴訟手続によるものである。そして通常民事訴訟による当事者は原則として訴訟主体として裁判権の行使を受けるに必要な訴訟上の権利能力又は法主体性を有するものでなければならない。しかるに本件被告は行政庁であつて国の一機関にすぎないから、特に当事者としてその権利能力を認められていない通常民事訴訟手続においては訴訟上の権利能力又は法主体性を有せず当事者となりえない。(そして、このことは大阪国税局長を被告とした場合も同様である。)したがつて行政訴訟特例法第三条の適用のない通常民事訴訟手続による本件にあつては滞納処分によつて所有権帰属の効力が発生したと主張する国のみが被告たる能力を有するものといわなければならない。

しかるに原告は何等訴訟物である権利又は法律関係について実質上の権利帰属者でなく、又は帰属者なりとして争いうる者でない行政庁を被告としたものであるからこの点において本訴は不適法たるを免れない。

よつて、その余の点につき判断するまでもなく訴を不適法として却下し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 乾久治 裁判官 松本保三 同 井上孝一)

目録

第一、大阪市東淀川区野中北通二丁目三十四番地

一、宅地 四百九十四坪

第二、同市同区同所地上家屋番号

同町第二十二番

一、木造スレート葺平屋建倉庫 一棟 建坪四坪一合一勺

一、木造瓦葺平屋建工場    一棟 同九十七坪六合

一、木造瓦葺平屋建居宅    一棟 同三十二坪四勺

一、木造瓦葺平屋建倉庫    一棟 同二十四坪二合八勺

一、木造スレート葺平屋建工場 一棟 同五十五坪七勺

一、木造スレート葺平屋建工場 一棟 同八十坪八合

一、木造スレート葺平屋建工場 一棟 同二十八坪一合二勺

一、木造スレート葺平屋建倉庫 一棟 同十九坪二合五勺

一、木造スレート葺平屋建工場 一棟 同九坪五合一勺

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